その化学構造から、小豆色素の部分構造としてグリオキシル酸架橋カテキン骨格が示唆されました。
小豆は、老化を遅らせるほか、心臓の健康向上、がん予防、コレステロール低下、活力増進、筋肉量増加など様々な健康効果があることから、中国の伝統的な漢方薬の原料として広く用いられています。
これらの効果の多くは、抗酸化物質含有量の高さに起因します。抗酸化物質は、重要な代謝過程の副産物として生じる反応性の高いフリーラジカルを除去することで、それらフリーラジカルによる組織損傷及び炎症を予防します。
小豆の色素の主成分はポリフェノール類で、抗酸化作用や抗菌作用、脂質低下作用、心臓保護作用があります。このポリフェノール類には、フェノール系オリゴマーや、ポリマーであるプロアントシアニジン類が含まれます。
興味深いことに、このプロアントシアニジン類は、化学的には安定しているものの、成熟期には修飾や変換を受けて小豆種皮に色の変化をもたらします。プロアントシアニジン類はフラバン-3-オールを構成単位とするカテキン類の単純な重合体ですが、成熟過程における変化により部分的な不規則性を生じます。
この不規則性が色変化をもたらすことから、修飾を受けたプロアントシアニジン類には未だ同定されていない発色団があるに違いないとの仮説が立てられました。
小豆色素中のプロアントシアニジン類に新たな発色団が含まれるかどうかを調べるため、小豆種皮に含まれる色素の詳細な特性評価が行われました。
試料の分析には、HPLC-ESI-MSが用いられました。チオール分解後の構造解析では、Bruker BioSpin社製AVANCE III 600型NMRにより、小豆種皮のメタノール抽出液及び抽出残渣に含まれる成分の解析が行われました。
小豆種皮のメタノール抽出物には2種の赤色ポリマー色素が含まれていることを、スペクトルデータは示しています。1種は単純で典型的なプロアントシアニジンでしたが、もう1種は複数の修飾や変換によって生成されるより複雑なポリフェノールでした。この2種のポリフェノール化合物は異なる部分構造を持つ発色団を有し、直接チオール分解によって3種の異なる産物が得られました。このうち1種の化合物は、グリオキシル酸架橋カテキン骨格を有することが示されました。
新たに同定されたこの物質が、小豆の成熟過程で見られる種皮の色変化をもたらすプロアントシアニジン変換機序の解明につながる可能性を著者らは示しています。
さらに、この研究で同定された化合物には、小豆にその生理活性を付与する成分である可能性も期待されます。小豆色素成分のより詳細な研究が、構造活性相関の解明に役立つかもしれません。
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