ラマンの基礎

顕微ラマン分光法入門

はじめに顕微ラマン分光法の基礎を簡単に説明し、その後スペクトル分解能や共焦点性などの重要性についてを詳しく解説していきます。
はじめに

顕微ラマン分光法とは?

顕微ラマン分光法について

顕微ラマン分光法(μ-ラマン)は、従来の光学顕微鏡法とラマン分光法による化学的な定性分析を組み合わせたものです。

どちらの手法もそれ自体で十分に有用ですが、これらを組み合わせることで微小な物質 (> 0.5 µm) について化学的に調べることができるため、スペクトルと空間情報をリンクさせることができます。

赤外顕微鏡とは対照的に、ラマンは単純なガラス光学系で扱える光を使用するため、一般的な顕微鏡と容易に連結することができます。そのため、ラマン顕微鏡は高品質な光学顕微鏡をベースに開発されることが多くあります。

サンプリングと共焦点性について

一般的には、顕微ラマン分光法では複雑な試料の前処理は必要ありません。通常は、試料をそのまま顕微鏡のステージに置くだけですが、前処理が必要な場合でも、断面出しをしたり、大きな試料をステージに合うサイズにカットしたりする程度です。

ただし、ラマン分光法と同様に試料には制限があり、蛍光を強く発する場合は、ラマンスペクトルが得られないことがあります。

試料によっては、三次元の空間分解能を持つ共焦点ラマン顕微鏡を必要とするものもあります。この方法では、容器内の測定(ガラスバイアルなど)や三次元でのサンプルの特性評価が可能です。

ラマン顕微鏡の校正

正確で信頼性の高いμ-ラマン測定の結果を得るためには、波長軸の正確な校正が不可欠です。ラマン顕微鏡の操作上の変更は、通常、波数校正の面で多かれ少なかれ深刻な結果をもたらします。

以前より、波長の(再)校正は、シリコンを標準試料として測定することで、その都度行われていましたが、最近の顕微鏡では、利便性を最大限に高めた継続的な校正が可能です。

継続的に校正されていない場合、最適なスペクトルデータが得られません。レーザー、アパーチャ、グレーティングの変更による機器のわずかな調整後や、突然の衝撃や振動、温度の変化や変動などの後にも、定期的に再校正する必要があります。

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スペクトル分解能とは?空間分解能とは?

この図は、波数分解能が4.0 cm-1(赤)と1.5 cm-1(青)で測定したトリプチセンのスペクトルを示しています。1.5cm-1の方が、4.0 cm-1では区別できなかった、より多くのバンドが分解されていることがわかります。

スペクトル分解能とは、スペクトルの特徴を個々の要素に分解する能力のことです。この能力が低すぎると、いくつかのスペクトル信号はブロードな「バンド」の中に埋もれてしまいます。

一方、この能力が高すぎると、測定に必要以上に時間がかかり、ユーザーにとっては何のメリットもありません。したがって、特定の試料に理想的なスペクトル分解能を知ることが重要です。スペクトル分解能が「低すぎる」か「高すぎる」かは、それぞれのアプリケーションや分析タスクによって異なります。

空間分解能は、物体がどれだけ鮮明に見えるかに影響するため重要です。顕微ラマン分光法では、試料中の異なる構造を区別するために用いられることがあります。空間分解能が高いほど、より詳細な情報が得られます。

面方向と深さ方向の分解能は、様々なパラメータによって決定されます。空間的に最高の分解能を達成するためには、共焦点ラマン顕微鏡を使用する必要があります。一般的に、空間分解能は、ラマンイメージングにおいて決定的なパラメータとなります。

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共焦点性とは?ラマンにとってなぜ重要なのか?

光学顕微鏡法において共焦点とは、観測している像の焦点と照明光の焦点が同じ位置にあることを意味します。つまり、照明は試料全体ではなく、非常に小さな一点だけにスポット状に照らし、そしてその一点から発せられる光だけを観測します。これは、それぞれの光路上の試料位置と光学的に共役な位置にピンホールを配置することで実現されます。これにより、面内の空間分解能が向上し、同時に被写界深度を浅くすることができます。

共焦点顕微ラマン分光法とは?

共焦点の原理をラマン分光法に応用することで、x,y軸(横方向)とz軸(深さ)に沿った空間分解能を高めながら、デプスプロファイリングが可能になります。しかし、ラマン顕微鏡は共焦点デザインが異なる場合があります。

真の共焦点デザイン

真の共焦点ラマン顕微鏡の最大の利点は、空間分解能とスペクトル分解能を独立して制御できることです。これは、分光器のエントランススリットの前にピンホールアパーチャを配置することによって達成されます。可変ピンホールアパーチャは共焦点性を制御し、エントランススリットは分光器のスペクトル分解能を制御します。この設計の欠点は、最適な性能を維持するために両方のアパーチャを理想的に揃えることが非常に難しいことです。

疑似共焦点デザイン

簡略化された構成では、空間分解能は、一方向のエントランススリットとそれに直交に配列するCCD検出器の空間分解能の組み合わせによって制御することができます。分光器の制約により、空間分解能に関する性能は低下しますが、疑似共焦点設定の光学系の数を減らすことで、全体のスループットが大幅に向上します。

ハイブリッド共焦点デザイン(FlexFocus)

ハイスループットと真の共焦点デザインの利点を両立するため、ラマン顕微鏡には、共焦点アパーチャと、分光器エントランスとして機能するピンホールとスリットのセットを含むハイブリッドアパーチャアレイを装備することができます。このハイブリッドデザインは、2つのデザインの利点を組み合わせ、真の共焦点またはハイスループット設定へのオンデマンドアクセスを可能にします。

 

従来の光学顕微鏡と共焦点光学顕微鏡の違い。
赤色スペクトル:50μmのピンホールを用いて10秒で取得。青色スペクトル: 50μmのスリットを用いて1秒で取得。
最後に

顕微ラマン分光法に関するよくある質問

ラマン分光法のアドバンテージは?

ラマンには、FT-IRやFT-NIRなどの他の振動分光法と比較して、いくつかの大きな利点があります。ラマン効果は、FT-IRのような光の吸収現象とは対照的に、試料からの非弾性散乱光現象です。その結果、ラマン分光法は、固体、液体、気体の測定において、試料の前処理を全く必要としないか、ほんのわずかしか必要としません。さらには、ガラスやプラスチックなどの透明な窓越しからも測定することができます。水のラマンシグナルは非常に弱いため、ラマン分光法は水の強い干渉を受けることなく、水溶液に溶解した化合物を容易に検出することができます。そのため、ラマン分光法は生体試料のネイティブな状態での測定にも非常に適しています。

ラマンスペクトルの取得にはどれくらいの時間がかかりますか?

露光時間は、期待するスペクトルの質、レーザー出力、ラマン散乱の試料断面積など、多くの要因に依存します。一般的に、高品質のラマンスペクトルは数秒以内に取得することができます。

混合物からラマンスペクトルを得ることは可能ですか?

ラマンスペクトルには、測定されたすべての分子に関する情報が含まれています。したがって、混合物から得られたラマンスペクトルには、さまざまな分子に由来するピークが含まれています。成分のスペクトルが既知である場合は、組成に関する定量的な情報を得ることができます。

ラマンが検出できる情報は、化学構造以外に何がありますか?

ラマン分光法は、分子中の同位体、異方性、結晶性、多形、結晶格子中のドーピング、張力、圧力、温度などのさまざまな情報を、直接または間接的に提供します。

ラマン分光法に定量性はありますか?

スペクトルの強度は濃度に比例します。ピーク強度と濃度の関係は、既知のサンプルで校正することができます。混合物においては、ラマンピークは同時に化合物の濃度に関する定量的な情報を提供します。 

私の用途に最適なレーザー波長は何nmですか?

残念ながら、特定のアプリケーションに最適なレーザー波長は、必ずしも明確ではありません。ラマン分光測定における励起波長を最適化するためには、多くのシステム変数を考慮しなければなりません。散乱効率、蛍光の影響、検出器効率に加え、システムの費用効果や使いやすさなどを考慮する必要があります。その結果、最も使用される波長は、785nmおよび532nmです。532 nmは、特に無機材料や、グラフェンやフラーレンなどのカーボン材料に適しています。

ラマン測定の代表的なレーザー出力は?

ラマン顕微鏡の試料上でのレーザー出力は、通常、サブmWから数十mW程度です。ラマン強度はレーザーの出力に比例します。ただし、強力なレーザー出力で使用すると、試料が損傷するリスクが高くなります。試料の損傷を避け、良質なスペクトルを得るためには、レーザー出力を下げて長い露光時間での測定が必要となります。