アプリケーションノート -  磁気共鳴

山火事でできた炭に含まれるフリーラジカルが長期間残留するという研究結果

「山火事でできた炭は世界中の多くの土地に遍在しており、気候システム、生態系の機能、環境衛生への影響を包括的に理解することは、基本的で重要なことです。」

山火事は、生態系において、ある時期に再生や生成を促すために発生する自然の摂理です。しかし、人為的に発生する山火事と自然に発生する山火事の頻度が増えていることから、その環境への影響について多くのことが研究されています。具体的には、山火事では貴重なエネルギー源である木炭ができますが、この木炭が多くの土地で認められ、気候システムや生態系全体の健全性に影響を与えます。木炭が自然環境に影響を与える理由は、環境中に残留するフリーラジカル(EPFR)の発生源となるためです。

自然界では、フリーラジカルは揮発性があり、酸素のような反応性元素の前駆体であり、環境への潜在的な脅威となっています。環境中に残留するフリーラジカル(EPFR)は、自然界のシステムに悪影響を及ぼすと考えられています。バクテリアや個々の細胞機能への極めて小さいスケールでの悪影響から、有用な植物の成長などプロセス全体の破壊まで、EPFRは(人間を含む)生体システムへの潜在的な脅威となっています。

これまでの研究では、汚染物質としての木炭や、自然の栄養サイクルを乱す作用に焦点が当てられてきましたが、環境中に残留するフリーラジカルの発生源となる木炭についてはほとんど知られていません。オーストリア、スペイン、イギリスの大学からなるヨーロッパの研究者チームは、EPFRの詳細を調査するために、特に山火事の炭に含まれるEPFRの濃度と安定寿命に注目しました。

山火事でできた炭サンプル中のフリーラジカルの濃度と安定性の測定

研究チームは、10カ所の異なる山火事現場から集められた60個の木炭サンプルを分析し、多様な生態系の中から結論を導きました。例えば、森林、低木林、草原などの生態系、そして熱帯、亜熱帯、温帯などの様々な気候の土地で採取されたサンプルです。

採取後、研究チームは一連の物理的・化学的分析法を用いて、山火事でできた木炭の特徴を調査しました。具体的には、XバンドのBruker Elexsys-II E500 ESR(Bruker Biospin GmbH)を用いて、変調周波数100 kHz、マイクロ波周波数9.8 GHzの条件でESRスペクトルを測定しました。さらに、Bruker Win ESR Acquisitionソフトウェアを用いて測定と計算を行った後、データ解析をしました。

今回の研究では、山火事でできた木炭に高濃度のEPFRが含まれていることが明らかになりました。さらに、分析されたサンプル中のEPFRの濃度は、木炭の炭素の量に比例することがわかりました。

調査では、山火事の炭に含まれるEPFRの量だけでなく、EPFRの性質についても明らかになりました。研究グループは、山火事の炭に含まれるEPFRは何年も安定していると結論づけました。実験では、山火事の発生から4年間でEPFRの濃度がわずかに低下し、火災発生から5年目にはフリーラジカルで満たされた木炭が形成され、減少傾向がやや大きくなりました。

自然の生態系における高濃度で高い安定性のあるEPFRは、環境に大きな影響を与えます。木炭やその中のEPFRが水源を汚染すると、EPFRは非常に不安定で毒性のある形態に変化する可能性があります。

しかし、研究者らは、山火事の炭のEPFRがもたらす環境リスクの範囲と程度を正確に理解して結論を導くためには、さらなる研究が必要だと主張しています。特に、地球環境が変化し、自然や人為的な原因による山火事が増加している現在、木炭のEPFRを調べることは、環境動態を理解する上で非常に重要です。

電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance: ESR)は、電子常磁性共鳴(Electron Paramagnetic Resonance: EPR)とも呼ばれ、あらゆる物質中の不対電子スピンを極めて高い感度で検出することができます。このような不対電子を持つ有機ラジカルは、食品や化粧品の酸化劣化、ポリマーの劣化、原油中のアスファルテンの検出から、今回紹介した山火事でできた木炭まで、様々なプロセスに関与しています。

ブルカーのESR装置とソリューションは、ボタンを押すだけで使用できる品質管理ツールから、高感度の研究用装置まで多岐に渡ります。

参考文献

Sigmund, G., Santín, C., Pignitter, M. et al. Environmentally persistent free radicals are ubiquitous in wildfire charcoals and remain stable for years. Commun Earth Environ 2, 68 (2021). https://doi.org/10.1038/s43247-021-00138-2