スピンラベルされたタンパク質中のニトロオキサイドのモビリティ分析
ESRでは、スピンラベル法を用いることで、タンパク質の構造とダイナミクスを研究することができます。ESRによる距離測定は主に2点間の距離を求めます。タンパク中の内因性常磁性種を用いる場合は、フラビンなどのラジカル因子や、チロシン、トリプトファンなどの有機ラジカル、遷移金属を用います。ラジカルが存在しない場合は、ニトロオキサイド、遷移金属などの外因性スピンラベルを用います。
シトクロムcオキシダーゼの常磁性中心のESRによる特性評価
既知のタンパク質の約30%は金属タンパク質です。これらのタンパク質は、電子伝達、薬物代謝、病気のメカニズムなど、生物学的に重要な様々なプロセスに関与しています。ESRは、金属タンパク質の電子構造を研究するだけでなく、その酸化還元補因子、結合部位、基質反応の特性を明らかにする上でも重要な役割を果たしています。例えば、シトクロムcオキシダーゼは、ミトコンドリアや多くのバクテリアの呼吸鎖の末端タンパク質です。低スピンのヘムであるヘムaは、サブユニットIIに結合した銅A(CuA)中心から電子を受け取り、二核金属中心に電子を移送します。
Cu,Zn-SODの活性部位の検出と研究
多くの酵素反応では、1電子の酸化反応が行われ、ESRで検出可能な酵素の常磁性過渡状態を経ます。不対電子が位置する常磁性中心は、通常、遷移金属(金属タンパク質)またはアミノ酸由来のラジカルが中心となっています。酵素の機能を理解するためには、常磁性中心の検出と同定が重要になります。例えば、ネイティブなSOD1酵素では、活性部位に1つのCu(II)イオンが存在し、非常に特徴的なESRスペクトルを示します。
bis-TEMPOのESRスペクトルと双極子カップリングの決定
DNP-NMR実験を成功させるためには、DNP分極剤の正しい濃度測定が重要です。特許取得済みのSpinCountモジュールを使用することで、DNP実験の前に、MASローター内にあるサンプルでも事前にスクリーニングすることができます。緩和時間はDNP効率に重要であることから、新しい分極剤のDNP効率を推定するための低温でのP1/2測定は非常に重要です。DNP分極剤の測定で重要なもう一つの特性は、溶液や凍結溶液のESRスペクトルから容易に測定できる電子-電子 双極子カップリングです。
CuCl2/H2O2処理で検出されたDNA由来のラジカル
スピントラップ法を用いたESR測定では、活性酸素種(ROS)によるDNAやRNAなどの生体高分子の損傷に伴って発生する高分子種の検出・同定に成功しています。これらの物質の分解や変化は、多くの細胞の損傷や病気に重要な役割を果たしていることが知られています。
スーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカルのESRによる定量的観測
酸化ストレスや細胞の損傷は、がん、アルツハイマー病、動脈硬化、自閉症、感染症、パーキンソン病などの発症に関連しています。活性酸素(ROS)は、細胞の酸化ストレスや損傷の主な原因であり、タンパク質、脂質、DNAに損傷を与えます。活性酸素の代表的なものは、スーパーオキシドラジカル(O2•-)やヒドロキシルラジカル(HO•-)などのラジカルです。以下のように、キサンチン/キサンチンオキシダーゼ系で、ラジカル生成と分解の様子をESRで正確に追跡しています。
スピンプローブCMHを用いたスーパーオキシド生成の経時変化
血管細胞では、高血圧、糖尿病、心不全などで、生成するスーパーオキシド(O2•-)の増加が示唆されています。そのため、O2•-を正確に検出し、定量することは、これらの様々な心血管疾患その他の病因を理解する上で非常に重要です。以下に示すように、ESRでは容易にスーパーオキシドの発生を経時的にモニターすることができます。
100Kで検出されるオキシヘモグロビンへの一酸化窒素の結合
一酸化窒素(NO)は非常に反応性の高い調節分子であり、中枢神経系の神経伝達物質、循環器系の血管運動調節物質、免疫系の細胞毒性メディエーターなど、多くの重要な生理的役割を担っています。NOはフリーラジカルであり、半減期が短い(30秒以下)ため、直接測定することは困難です。不安定なNOを検出するには、NOをトラップする技術を用い、より安定な複合体を形成し、その後ESRで検出する方法があります。例えば、オキシヘモグロビン(oxyHb)による一酸化窒素(NO)の硝酸塩への酸化は、NOの生物学における基本的な反応ですが、NOとヘムの結合はESRで確認することができます。