アプリケーションノート -  磁気共鳴

ラグタイムアナライザーでビールの賞味期限を適切に

ブルカーのESRラグタイムアナライザーは、ビールの抗酸化力を直接測定することができるコンパクトで使いやすい卓上型の装置です。ビール製品の抗酸化物質含有量に対する様々な製造工程の影響を確認することができます。

ビールの賞味期限は、その酸化劣化の速度と抗酸化力によって決まります。

酸化による劣化はフリーラジカルの酸化によって生じます。フリーラジカルは、不安定で非常に反応性の高い、不対電子のある原子・分子やイオンです。不対電子は近傍の分子にある電子を求めて結合(酸化)するため、ビールはそのダメージを被って熟さないまま劣化することになります。

ビールは貯蔵中に、その内部の酸素分子が鉄などの微量金属によって「活性酸素種」(ROS)フリーラジカルに変換されます。近傍から電子を取ってフリーラジカルが安定すると、今度はその電子の提供元がフリーラジカルになり、別のところから電子を得ようとします。このようにして、永続的な反応の連鎖である「フリーラジカルのカスケード」が始まり、アルデヒドとケトンが生成されます。これら化合物がビールの風味を劣化させてしまうのです。

例えば、ビールに「ダンボールのような」においを付けるのは、トランス-2-ノネナールというアルデヒドです。このにおいには典型的な炭素臭があり、飲みたくなくなるほどビールを苦くします。

ビールの賞味期限をより適切なものにするという点では、充填済みのビールでしか賞味期限のテストを実施できないという問題があります。この方法では、ビール製造のどの段階で品質に影響があったのかを判断できません。

FlavorActiV社で風味安定化担当リーダーを務めるHeidi Grimmer氏は、ブルカーBioSpinのe-スキャン電子スピン共鳴(ESR)システムを使ってビール製造の各段階を分析し、どの手順を変更すれば賞味期限を改善できそうかを把握することができるようになったと語っています。


FlavorActiV社は、適正製造基準(GMP)での供給や、品質管理環境の研修パネル、習熟に関する世界的なリーダーです。Grimmer氏は、テイスティングは製造工程内ではほとんどできず、充填されたビールで行う以外にないため、一部のテイスティングを分析法にリンクさせられるようになったのは重要なことだと説明してくれました。

ブルカーのシステムでできるのは、ビールのフリーラジカルの割合を計ることです。その割合が賞味期限を教えてくれます。基本的に、ビール中のフリーラジカル化が早ければ早いほどビールの劣化が急速に進みます。

まず、ビール内にある抗酸化物質が、フリーラジカルの芽を摘みます。抗酸化物質は、フリーラジカルを食い止める分子です。つまり、抗酸化物質は不安定になることなく電子を与えることができるためフリーラジカルのカスケードや反応の連鎖を止められるのです。これにより、ESRシグナル強度の時間プロファイルに「タイムラグ」が生じ、このタイムラグがビール中の抗酸化物質の量に直接反映されます。

ブルカーのESRラグタイムアナライザーは、コンパクトで使いやすいデスクトップ型の装置で、ビールの抗酸化能力を直接測定できる強力なツールです。これを使って、ビール会社は、製造の各段階がビールの最終的な抗酸化物質の量に及ぼす影響を確認するためのテストを実施できます。このテクノロジーによって、醸造から麦芽製造まで、麦汁の冷却~発酵~熟成の全工程を測定できるようになりました。

Grimmer氏は、ブルカーのESRを用いることで、充填までのプロセス全体を調べ、ビールの新鮮さに関する優れた証が得られるようになったと述べています。「醸造プロセスに影響を与える段階をどの時点でも特定できます。つまり、その影響がどの程度ビールの新鮮さや消費者の満足度を高めるのかを測定できるのです」次のステップは、ビール中の抗酸化物質の量を最適な状態にするなど、原材料と醸造工程をより適したものにすることです。それによりビール中のフリーラジカル形成量を抑制し、賞味期限を延ばすことができます。

一般にビール会社は、官能検査(ビールテイスティング)でビールの劣化を推測しますが、工程変更に関する評価としては実用的でない面もあります。さらに、その実施には何週または何カ月もかかることがあるほか、主観によって惑わされることもあります。

ESRを用いることで、ラグタイム測定と官能検査のフィードバックを組み合わせた二重の手法がビールの新鮮さを保証するために利用できます。

Grimmer氏は、大事なことは(問題を)特定して、次に是正することだと語ります。「それは、プロセス内の重要な点を見つけ、パッケージングを測定することです。重要な点とは、発酵の速度を早めること、溶解酸素量を増やすこと、そして『その影響はどのようなものか』という疑問に答えることなどです」

Grimmer氏は最後に、「重要な点を把握し、そして、方法を一度評価してください。そうやって改善された点は、改善された状態にずっと維持されるのです」と、語りました。