物質がどのように機能するかを理解するためには、物質表面の特性を原子レベルで把握することが重要です。分子間相関の解明は、特定の条件下での材料の挙動を予測するのに役立ちます。つまり、特定の研究やアプリケーションのニーズに適した材料の同定が容易になるということです。
核磁気共鳴(NMR)は、試料にダメージを与えることなく、固体の試料を容易に可視化できるため、特に表面の分子間相関を可視化するのに有効な手段です。NMRは、分子の構造、ダイナミクス、反応状態、化学的な環境について、これまでにないレベルの情報を提供します。
固体NMR法は主に13Cを検出しますが、表面特性を把握したい材料の多くは、天然に存在する13Cの量が少ないのが一般的です(1.1 %)。このため、高分解能のNMRイメージを得ることは困難です 1。
天然存在比が少ない13Cの検出には、より多くのサンプルを用いるか、より長時間の測定を行うことで対処しますが、これらが必ずしも実行可能または望ましいとは限りません。NMRイメージング技術の改良が、より一般に求められるようになっています。
シンプルな分子系のイメージングでは、二次元 1H-1H 相関NMRスペクトルを用いることで十分な感度を得ることができます 2。しかし、分解能が低く、化学シフトのレンジが狭いため、複雑な物質の研究には不向きです。1H-X スペクトルを用いることで化学シフトのレンジを広げることができますが、すべての化学種を明確に分離・検出するにはまだ分解能が十分でありません。そのため、多くのX-X相関実験では、時間とコストのかかる同位体標識の作業を行う必要がありました。さらに、同位体標識は不要な双極子トランケーションを引き起こす可能性があります。
動的核分極法(DNP)は、固体NMRの感度を向上させるために用いられる最新の技術です。これは、電子の高い分極を核スピンに移して大きくし、NMR信号を増大させることで実現されます 3。「高度に分極した(hyperpolarized)」溶液中の電子のスピンの分極が、試料の原子核に伝達されます。その結果、NMR信号は熱平衡状態の時と比べて数千倍にもなります。ジャイロトロン、低温マジック角回転(MAS)プローブ、ビラジカル分極剤の開発により、さらに信号が増強され、天然存在比の13Cなどの低感度な希少核間の二量子・単量子相関(DQ/SQ)の観測が可能になりました。
プロトン駆動スピン拡散 (PDSD: proton-driven spin diffusion)技術を用いたDNPで感度増強された固体NMRは、13C-13Cロングレンジ相関の測定に用いられるなど、様々な高分子材料やバイオマテリアルの有用な構造情報を得るのに役立てられています 4。
最近では、触媒表面の異なる部位間の空間的な近接度を同位体濃縮を行わずに調べるために、この技術が初めて用いられました 5。最新の研究では、264 GHzジャイロトロンと低温MASプローブおよびBruker Biospin AVANCE III 400 DNP NMRを用いて、DNP感度増強測定が行われています。
様々な複雑な試料においても感度が向上し、分子間 13C-13C同種核相関が天然存在比のまま検出できるようになってきました 5。
著者らは、この手法により様々な物質の長距離相関を高分解能で研究でき、SiHHSiやCHHNなど、いくつかの同種核・異種核実験に利用できると結論づけています。
参考文献
Brown SP. Solid State Nucl. Magn. Reson. 2012;41:1‑27.
Kobayashi T, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2013;52:14108‑14111.
Ardenkjaer-Larsen JH. J. Magn. Reson. 2016; 264:3–12.
Aluas M, et al. J. Magn. Reson. 2009;199:173‑187.
Kobayashi T, et al. J. Phys. Chem. C 2017;121(44):24687‑24691.