「本研究の結果はリコピンだけでなく、各種生体分子を内包するアルギン酸ビーズ製剤の添加物の選択に役立ち、技術的応用の出発点となる可能性があります。」
リコピンは強力な抗酸化作用を有する赤色の天然カロテノイド色素です。トマト、スイカ、ピンクのグレープフルーツやグアバ、パパイヤなどに含まれているリコピンは、前立腺癌や心臓血管疾患といった重篤な疾患の発症リスクを減少させることが知られています。
体内に蓄積したフリーラジカルがもたらす害を抑制するために、リコピンを栄養補助食品として活用することが強く期待されています。しかしながら、リコピンは熱や光に反応しやすく、通常の環境では非常に不安定な物質であるため、実現への道のりは平坦なものではありません。
リコピンのカプセル内包化の試みは、保存と加工の過程における安定性を向上させることを目的としています。カプセル内包化とは、不安定な化合物を何らかの担体の内部に封入して環境の要因から守ろうとする技術です。
カプセル内包リコピンは、主に製薬・食品業界での利用が期待されていることから、担体は毒性がなく、免疫原性の低い材料であることが要求されます。
現在検討されている最も有望な材料の一つに、シンプルで刺激の少ない含水アルギン酸カルシウムベースのゲルがあります。ただし、このカプセルは低温や低湿度に対する防御力がほとんどないという弱点があり、リコピンの品質低下を十分に防ぐことはできません。
凍結と脱水は製薬・食品業界において、保存性を高めるために広く用いられている方法です。そこで、加工保存した後にもリコピンの抗酸化活性を維持するための手段として、凍結保護剤および脱水保護剤をカプセル内に加えることが試みられています。
最近のある研究では、トレハロース、βシクロデキストリン、キトサン、ペクチン、アラビアゴムなどの添加剤について、アルギン酸カルシウムビーズに封入されたリコピンを保護する能力の程度が検討されました。製剤の有効性を分析するための指標とされたのは、カプセル内包システムの物理化学的特性に加え、リコピンの含有量および安定性です。
低磁場プロトン核磁気共鳴法による測定値、プロトン横緩和時間および拡散係数の評価が、Bruker社のminispec mq20分光計の特異的なパルスシーケンスを用いて行われました。等温実験の温度制御にはBruker社のBVT3000温度可変装置が使用されました。
その結果、アルギン酸塩のみの担体にリコピンを内包した場合には加工中に活性の著しい損失がみられましたが、トレハロースとβシクロデキストリンおよびアラビアゴムを添加した内包システムでは、活性の低下を大幅に抑えることができました。
これらの保護剤を加えた場合の凍結、乾燥後のリコピン含有量は80%を上回っていました。内包化したリコピンにどのような凍結、乾燥プロトコルを適用したかに関係なく、同様の効果が得られています。
トレハロースがカプセル内に存在すると(他の添加物の有無を問わず)、含水量が減少するため、凍結時に50%が結晶化するまでに要する時間は短くなります。
トレハロースとβシクロデキストリンおよびアラビアゴムを添加したアルギン酸塩カプセル内包システムは、熱や水分によるストレスがかかる環境にあっても、活性を有するリコピンが劣化せずに輸送されるという目的にかなった適切な手法と考えられます。
参考文献:
Aguirre Calvo TR, Santagapita PR, et al. International Journal of Food Science and Technology. 2018; DOI: 10.1111/ijfs.13946.