この研究は、ナンキョクオキアミの価値ある活用法への新たなアプローチを示すだけでなく、オキアミ油の抽出と活用のための理論的基盤を提供します。
ナンキョクオキアミは最大15%のタンパク質と0.4%~3.6%の脂質を含有する、豊富なバイオマス資源の1つです。それ以外にもオメガ3多価不飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)という、心血管系の健康維持を助けるとされている物質の豊富な供給源でもあります。さらに、たとえば炎症や癌、糖尿病、免疫機能、高脂血症の発現を抑えるなどの健康増進作用を有する天然の抗酸化物質であるアスタキサンチンも含まれています。そのような理由から、オキアミ油は貴重な健康補助食品となっています。
オキアミ油は魚油に代表されるような健康上の効用を提供することを目指しており、幾つかの点では魚油以上に優れています。オキアミ油はオメガ3のバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が魚油に比べて高いだけでなく、多くの人に魚油の利用をためらわせる、あの強い後味がありません。その上、オキアミ油は魚油にはない抗炎症効果も有しています。それなのにオキアミ油の活用がなかなか進まない主な要因は、抽出工程の難しさにあります。
従来、オキアミ油をこの甲殻類から抽出するには、多大な労力を必要とするアセトンとエタノールによる2段階の抽出工程が用いられていました。より新しい方法ではオキアミを凍結乾燥することで、等量のエタノールとアセトンを用いた1段階の抽出工程が可能になり、オキアミ油の抽出効率が向上しました。しかしながら、この工程は費用がかかり、大量生産には適していません。また、どちらの手法も環境に有害な溶媒を使用しなければなりません。
先頃発表された最新のオキアミ油抽出法では、環境に優しいエタノールとヘキサンが溶媒として用いられます。この新工程で製造されたオキアミ油を従来の亜臨界抽出法によって得られるものと比較しました。各抽出法で得たオキアミ油におけるリン脂質、脂肪酸および抗酸化物質の含有量を、BrukerのAVANCE 500HZ NMRを用いて分析しています。
エタノールとヘキサンの比率を4:6として最新の抽出工程を用いた場合、脂質の収率は亜臨界ブタン抽出法を用いた場合に匹敵するものでした(およそ98%)。エタノールによる回収率は83.6%、ヘキサンでの回収率は86.86%でした。
最新のエタノール-ヘキサン抽出法を用いたとき、オキアミ油はヘキサンとエタノールの両方の層から回収されました。どちらのオキアミ油にも抗酸化物質が高い含有量で含まれていました。それとは対照的に、リン脂質とオメガ3多価不飽和脂肪酸は、エタノール層のオキアミ油に、より多く含まれました。しかし残念なことに、エタノール層から得たオキアミ油は栄養価が高いものの、水分含量が多いために保存期間が短く、せっかくの利点が相殺されてしまいます。
このように最新の抽出法は環境にも優しく、栄養豊富なオキアミ油の生産を可能にします。今後の課題として、エタノール層のオキアミ油の水分含量を減らすための技術改良が求められています。
参考文献:
Sun W, et al. The comparison of krill oil extracted through ethanol–hexane method and subcritical method. Food Science & Nutrition 2019;7(2). https://doi.org/10.1002/fsn3.914
Sun W, et al. The comparison of krill oil extracted through ethanol–hexane method and subcritical method. Food Science & Nutrition 2019;7(2). https://doi.org/10.1002/fsn3.914