化学および石油化学産業における核磁気共鳴(NMR)
もっとクリーンに、もっと効率的に、持続可能なものに。目指すところは世界共通で、化学と石油化学くらい異なる産業分野でもそれは同じです。石炭その他の燃料をきれいにすること、今より高性能の触媒を開発すること、カーボンフットプリントを減らすこと。そうしたプロジェクトは、経済発展のため、また、言うまでもなく地球を守るために重要であり、世界中でイノベーションを促しています。
しかし、壮大なアイデアの成功の陰には、小さな、本当の成功があります。
発見から原料の受入検査まで
すばらしいアイデアを実際のプロセスや製品として形にするには、それが工業製品である場合には特に、原料から中間体を経て最終製品になるまでの細部をしっかり把握する必要があります。「もっとクリーンに、もっと効率的に、さらに持続可能なものに」という目標に向けて既存のプロセスや製品を最適化するだけであるとしても、同じ品質や性能を確保しながらこれを行うには徹底した品質管理が求められます。
核磁気共鳴(NMR)はあらゆる工程で役立ちます
工業化学研究の分野においては、原子層堆積によりメソポーラスシリカに担持された酸化タングステン(WO)触媒の分析や、含侵法という一般的な手法で同じ担体に担持されたWO触媒との比較に、固体1H NMR分光計が使用されています。また、溶液1H NMR分光計は、バイオディーゼル製造の工程のひとつ、トリグリセリド類のエステル交換反応に使われる固体塩基触媒の分析に利用されています。
石油化学工業においては、NMRは、昔から反応のモニタリングや品質管理に広く使われてきましたが、技術や分析手法の進歩に伴い、使用分野が同工業全体に広がっています。NMR検層は、非常に難しい環境での測定であるにもかかわらず、地層の多孔度、地中に存在する液体の種類、特性、組成、粘度など、多くの情報を得ることができます。卓上型のシステムが一般的で入手しやすいものとなり、精製所のラボでも燃料サンプルの分析が簡便にできるようになりました。
時間領域(TD)NMRは品質管理に適しており、実際、品質管理目的で、燃料生産や、高分子、ファインケミカルや特殊化学製品の生産などの工業分野で使用されています。
電子スピン共鳴(ESR)は、工業化学の分野にその用途を見出しました。例えば、ESRは、二酸化硫黄と酸化マンガンとの相互作用や酸化カルシウムとの相互作用(アルカリ土類金属酸化物表面の硫黄汚染の一例)の研究などに利用されており、表面化学や触媒など、多くの化学分野で重要な成果を上げています。
必要とされるときに必要な情報を
分析手法が多様で装置の種類も豊富なため、NMRは、大学や企業の研究室から屋外まで、様々な設置環境で使用することができます。非常に多くの選択肢がある中で、試作品の評価から最終製品の品質チェックまで、NMRは研究・開発におけるあらゆる局面で活躍の場を得ています。一度の分析で複数の化学物質について豊富な情報が得られるため、反応モニタリングのツールとしても非常にすぐれています。装置やラボが異なっても再現可能な結果を得られるNMRは、原料の品質確認にまさに最適のツールです。