「N,N-ジメチルトリプタミンの6位にフッ素を導入することで、5-HT1A受容体に対する親和性が5分の1に低下する…」
イギリス国家統計局がまとめた自己申告データによれば、とりわけ若年層において、うつ病が世界的な増加傾向にあります。
アメリカ人成人では、毎年約4,000万人がうつ病などの精神病にしばしば伴う不安症を発症しています。現在のペースで増加が続けば、2020年までには、うつ病が心臓病に次いで最も身体障害性の高い疾患となると予測されています。
不安症及びうつ病はいずれも抗うつ薬によって治療されることの多い疾患です。抗うつ薬は症状の管理には役立ちますが、通常、患者を生涯にわたってうつ病から解放するものではありません。
また抗うつ薬は、性機能障害や体重増加といった有害な副作用を伴うことが知られています。不安症には鎮静薬が処方されることもありますが、これは頭痛や傾眠状態、浮動性めまいを引き起こす場合があります。
Mark Hamannとミシシッピ大学の研究チームは、うつ病及び不安症の治療において、より有効で安全な選択肢の必要性は明白であると指摘しています。Hamannらは近年、神経系受容体調整薬の候補として海洋由来のインドールアルカロイド類を検討しました。
このインドールアルカロイド類は、セロトニン受容体に高い親和性で結合することがこれまでに示されています。セロトニンは気分高揚効果を持つ神経伝達物質であり、現在用いられている抗うつ薬は、このセロトニンの異化または再取り込みを阻害することで脳内のセロトニン濃度を上昇させます。
Hamannらは、異なるハロゲン置換基を有するインドールアルカロイド2-(1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミンの誘導体を複数合成しました。臭素やフッ素、塩素といったハロゲン原子を有するハロゲン化合物は、医薬品の有効性及び標的選択性を高めることから、しばしば医薬品設計に組み込まれます。
研究チームは、これらハロゲン置換誘導体のin vitro及びin vivoでの抗うつ作用及び鎮静作用を、強制水泳試験及び自発運動試験により評価しました。
その結果、合成された誘導体のうち、2-(1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルl-2-オキソアセトアミド(1a)、2-(5-ブロモ-1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルl-2-オキソアセトアミド(1d)、2-(1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン(2a)、2-(5-クロロ1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン(2c)、2-(5-ブロモ-1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン(2d)及び2-(5-ヨード-1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン(2e)の6種に高い抗うつ作用が見られました。
このうち、2c、2d及び2eの3種には、併せて高い鎮静作用が見られました。
次に各誘導体の受容体結合能を検討したところ、2a、2c、2d及び2eの4種で、5-HT1A及び5-HT7セロトニン受容体に対するナノモルレベルの親和性が見られました。
この研究では、Bruker社製の高性能計測機器を用いて、質量分析及び核磁気共鳴(NMR)イメージング法により検討が行われました。質量スペクトルの測定にはBruker社製micrOTOF分析計、一次元及び二次元NMR実験にはBruker社製DRX NMRが用いられました。
NMR法により、6種のハロゲン誘導体で見られた抗うつ作用の少なくとも一部は、各誘導体とセロトニン受容体との相互作用によってもたらされることが示されました。
ここで見られた相互作用及び各誘導体が行動に及ぼした影響の発症機序を解明するには、作用機構のさらなる研究が必要となるとHamannらは加えています。
参考文献: