アプリケーションノート -  磁気共鳴

メイラード褐変反応に影響する因子:ケーススタディ

「添加したシステインは熱処理下でTTCAと反応し、それを完全に糖とアミノ酸に戻すことにより、更なるメイラード反応を阻害しました」

 

「添加したシステインは、熱処理下でTTCAと反応し、それを完全に糖とアミノ酸に戻すことにより、更なるメイラード反応を阻害しました」

メイラード反応とは、高温乾燥条件下で、アミノ酸の求核性アミノ基と還元糖の反応性カルボニル基との間に起こる特殊な化学反応の一種です。

ステーキ、魚のフライ、ビスケット、パンなど様々な食品に見られるメイラード反応は、煮る、ゆでる、蒸すといった調理法では得られない褐色の色合いや独特の風味をグリルやオーブンなどで焼いた料理に与えています。

料理を引き立てるそうした効果は、実に多様な化合物の生成によってもたらされるもので、それらメイラード反応の産物は食品業界において、好ましい香味を作るための添加物として大きな関心を集めています。

生成される化合物自体は熱安定性が低いため、食品の香りや外観への効果は加熱調理の過程で失われてしまうおそれがあります。そこで検討されているのは、比較的安定なメイラード反応の中間体を食品の香味料として用いることです。

中間体は、メイラード反応の途中で産生されますが、食品の風味や色に影響を与える最終産物ではない化合物を意味します。アマドリ転位の産物は、そうした中間体の一つであり、それを加熱して得られる熱分解産物は、食品の色や香りに好ましい変化をもたらすのです。

ただし、メイラード反応の中間体は水溶液から分離するのが難しいことが知られています。メイラード反応は、食品添加物の調製に必要な水性条件の下で起こる確率が高いので、安定な中間体を生成するための必要条件を特定することは困難です。

この問題は最近の研究で、様々な温度でメイラード反応を誘導し、システインを安定した中間体の生成状況の指標として用いることにより解決されました。

メイラード反応の中間体である2-トレイチル-チアゾリジン-4-カルボキシル酸(TTCA)およびアマドリ転位産物を精製し、LC-MSおよび核磁気共鳴(NMR)による同定が行われました。

全てのNMR実験にはBrukerのDRX 400 MHz分光計(現在のBruker AVANCEシリーズ)が用いられています。メイラード反応の中間体の蓄積は、低温で中間体の生成が比較的緩やかに進む場合に、最も大量に認められました。

しかも、低温では、メイラード反応の中間体の分解も抑制されました。反応の低温段階で産生された主要な中間体はTTCAでした。

システインはメイラード反応による褐変を阻害しますが、その効果は、添加したシステインがTTCAと反応し、ジカルボニル化合物の産生を妨げることで、目に見える色彩の発現を抑えた結果であることも示されました。

システインは、熱処理下でTTCAを糖とアミノ酸に戻すことにより、TTCAからアマドリ転位産物に至る正常な反応経路を妨害しました。

参考文献:

Zhai Y, et al. Interaction of Added L-Cysteine with 2-Threityl-thiazolidine-4-carboxylic Acid derived from Xylose-Cysteine System Affecting its Maillard Browning. J. Agric. Food Chem 2019. DOI: 10.1021/acs.jafc.9b04374.