「…環境残留性フリーラジカル(Environmentally Persistent Free Radicals , EPFR)は、燃焼生成粒子状物質に限らず、当初の予想よりも広く環境中に蔓延しています」
環境残留性フリーラジカル(EPFR)は、酸化ストレスによって肺に損傷を引き起こす可能性があるため、人の健康に害となります。EPFRは芳香族炭化水素間の相互作用によって生成され、数十年にわたり残留することがあります。近年、燃焼によって生成される大気中の微小粒子状物質にEPFRが高濃度で発生することが明らかになりました1。
土壌にはEPFRの形成に必要な3つの重要成分(レドックス活性遷移金属、分子前駆体-有機汚染物質、シリカ/粘土マトリックス支持体)が含まれているため、土壌と堆積物もEPFRを生成するリスクがあるのではないかと推測されています。また、土壌は有機汚染物質を蓄積することで知られており、有機汚染物質自体が有害なフリーラジカルを形成する可能性があります。吸入された土壌有機物は肺の内壁を覆う体液中の抗酸化物質の濃度を低下させ2、人に対するEPFRのリスクを高めることで知られているため、特に懸念されています。
米国では環境保護庁が、米国で最も汚染のひどい土地の一部を浄化するスーパーファンドプログラムを開始しました。このプロジェクトは地域住民の健康と環境の両方を保護するために、汚染された場所から汚染物質を除去することを目指しています。EPFRへの注目とその寿命に関する知識が高まるにつれて、このようなスーパーファンド対象区域は、浄化されてもEPFRの発生源であり続けるのではないかという懸念が生じました。そのため最近では、スーパーファンド対象地でEPFRリスクの状況を評価するための取り組みが強化されています。
25年以上にわたりペンタクロロフェノールで汚染されていた、元木材処理施設から採取した土壌試料を分析したところ、EPFRの存在が明らかになりました3。このEPFRは、土壌マトリクスに閉じ込められた有機化合物と土壌の他の無機成分や生物学的成分との相互作用、また土壌基質への電子移動によって形成されたに違いないと考えられました。従って過去に有害廃棄物によって汚染されていた土壌は、浄化された後も実際にはEPFR生成のリスクがあると考えられます。
最近になって、100年前までに土壌が有害化合物で汚染されていた別のスーパーファンド対象地3か所でEPFRの形成状況の調査が行われました。ペンタクロロフェノール(PCP)、多環芳香族炭化水素(PAH)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリ臭化ビフェニルエーテル(PBDE)などの有害化合物です4。各土地の土壌試料は、Bruker EMX 10/2.7電子スピン共鳴(ESR)を使用して分析されました。
汚染された歴史のある土壌試料のEPFR濃度は、汚染されていない土壌試料よりも最大30倍高いことが判明しました4。EPFRの最高濃度は中深度土壌(10〜20cm)で検出され、最下層土壌(20〜30cm以上)のEPFR濃度は最低でした。また、汚染土壌試料は汚染されていない土壌試料よりも炭素含有量が高いことがわかり、他にも有機物(汚染物質)が存在していたことが明らかになりました。EPFR濃度と総炭素含有量の間には直線的な高い相関も認められました。このことから、土壌有機物は活性酸素種を除去するのではなく、実際には活性酸素の生成を促進する可能性があることがわかります。
100年前から10年前までの期間に汚染された場所の土壌にEPFRが存在していることは、EPFRが土壌中の分子汚染物質から継続的に形成されている可能性があることを示唆しています。これらの調査結果は、高濃度のEPFRが燃焼によって生成された粒子状物質だけでなく、汚染された土壌でも発生すること、そのため当初の予想よりも広く環境中に蔓延していることを示しています。
参考文献
Yang L, et al Highly Elevated Levels and Particle-Size Distributions of Environmentally Persistent Free Radicals in Haze-Associated Atmosphere. Environ. Sci. Technol. 2017;51(14):7936–7944.
Qi S, et al. Damage to lung epithelial cells and lining fluid antioxidant defense by humic acid. Environ Toxic Pharm. 2008;26:96–101.
dela Cruz ALN, et al. Detection of environmentally persistent free radicals at a superfund wood treating site. Environ Sci Technol. 2011;45(15):6356–6365.
dela Cruz ALN, et al. Assessment of Environmentally Persistent Free Radicals in Soils and Sediments from Three Superfund Sites. Environ Sci Process Impacts 2014;16(1):44–52.