HI 90

化学事故やガス漏れに対処する際、第一応答者は安全な距離を保ちながら、潜在的に危険なガス雲の位置と組成を知る必要があります。HI 90は、数キロメートル離れた遠方からでもガス雲の位置と組成を同時、正確、迅速、かつ自動的に検知できる卓越したツールです。

HI 90は、FT-IR分光計とクライオクーラー・フォーカルプレーンアレイ(FPA)検出器を組み合わせたものです。FPA検出器の各素子から測定された中赤外スペクトルを分析することにより、目に見えないガス雲をリアルタイムで検知・可視化することができます。

あらゆる方向に自由に測定可能

HI90は、カメラの向けられた先にある熱源を外部赤外光源として利用し測定します。これには、測定方向にあるガス雲からの熱放射も含まれます。そのため、人工的な光源や反射体は必要ありません。HI 90は、このように「パッシブ」なリモートセンシングシステムであり、ユーザーが測定したい方向を自由に選んで測定することができます。

迅速な検知と可視化

各検出素子から測定された中赤外スペクトルは、リアルタイムでスペクトルライブラリ内の参照スペクトルとリアルタイムで比較されます。ある検出素子における測定スペクトルが特定のガスの参照スペクトルと一致した場合、そのガスが定性されたことを示すために色分けされます。この定性結果ごとに異なる色を付けられた画像（すなわちケミカルイメージ）は、ガス雲を可視化するために測定エリアの可視画像に重ねられます。HI 90は3秒以内に16,000以上のスペクトルを採取・分析できるため、ケミカルイメージはリアルタイムで変化します。

高感度を実現

ブルカーのアクティブアライメント方式の干渉計、クライオクーラーFPA検出器、専用リモートセンシングソフトウェアとの組み合わせにより、HI 90は超高感度を実現します。

例えば、手に塗布した消毒ジェルから蒸発したエタノールやベーカリーでの生地の発酵から放出されるエタノールなどの小さなガス雲を簡単に検知し可視化することができます。

豊富なレファレンススペクトルライブラリー

レーザーや光学フィルターベースのシステムとは異なり、HI 90は広い波数範囲にわたり高分解で赤外スペクトルを測定します。これによりレファレンスライブラリを絞り込むことなくガス化合物の明確な定性が可能になります。

HI 90のスペクトルライブラリーには40種類以上の化合物が含まれています。1回の測定（3秒以内）で取得されたスペクトル（16,000以上）のいずれかに化合物の特徴的な吸収が存在すれば、その化学物質は即座に定性されます。さらに、ブルカーは350以上の化合物を含む拡張ライブラリをオプションとして提供しています。ライブラリーは測定時だけでなく、測定後の再解析時においてもみ検索に使用できます。

自動ポジショニングによる監視

HI 90の電動パンチルトヘッドは、HI 90の制御ソフトウェアOPUS RSで正確に制御およびプログラムすることができます。

トモグラフィでガス雲を特定

測定エリアのビデオ画像に化学画像を重ねることで、ユーザーはガス雲の2次元的な位置を特定できます。

さらに、相互に接続された2台のHI 90とトモグラフィー・ソフトウェア・モジュールを使えば、ユーザーはガス雲の位置を特定、3Dモデルとして再構成することも可能です。

美術品と保存科学のためのHI 90特別バージョン

美術品分析用HI 90は、1000℃まで加熱可能な中赤外光源を組み込んだ専用セットアップです。本セットアップは、レール、移動式撮影機台、昇降システムに取り付けることができ、広い範囲の美術品や文化遺産のマッピングを迅速かつ簡単に行うことができます。研究者は、美術品分析にHI 90を使用することで、試料に隠された塗装色やコーティングの空間分布を明らかにすることができます。この情報は、美術品や文化遺産を修復・保存する際に非常に重要です。このアプリケーションの詳細については、こちらの文献をご覧ください。

化合物を検知し可視化するHI 90の能力は気体に限定されるものではありません。固体または液体の表面自体から中赤外光が放射されている場合、あるいは外部光を反射している場合、この表面上のさまざまな化合物に固有の赤外吸収を分析することで化合物を定性しその空間分布を明らかにすることができます。