金属切削工具のコーティングの分析    

 金属切削工具にはWC-Co(コバルト中の炭化タングステン)などの超硬合金が用いられ、表面硬度、剛性、耐摩耗性を向上させるためにCVDやPVDを用いて複数のコーティングが行われます。これらのコーティングは、主にTiN、TiC、ZrN、VN、TiCN、TiAlNのような遷移金属窒化物・炭化物です。SEM-EDSは炭化タングステンなどへのコーティングを分析できる優れた手法です。

 このアプリケーション例では、WC-Co上のTiC/N層とAl2O3層をEDSでマップ分析しています。図1は、切削工具刃先の集束イオンビーム(FIB)断面を示しています。表面のTiNコーティング層の下に、Al2O3/TiN/TiCN/TiNのコーティング層、基材のWC-Coがあります。EDSを用いると、TiN、TiCN、TiN層の間での窒素濃度の違いを確認することができます(図2)。重なり合うTiとNのピークはブルカーのESPRIT ソフトウェアで自動でピーク分離することができます(図4)。

図1:炭化タングステン切削工具の複数のコーティング層のEDSマップとSE像。表面は集束イオンビームミリング(FIB)で研磨されています。
図2:EDSによるTi、C、Nの分布。左から順にTiN/TiCN/TiN/TiC。EDSは、CやNなどの軽元素の組成変化を簡単に識別することができます。
図3:超硬工具の炭化タングステンと結合剤CoのEDSマップ
図4:ESPRITソフトウェアを用いたTiとNの自動ピーク分離と定量分析