2021年に行った卓上型のMagnettech ESR5000のウェビナーでは、ライブ投票によって、当日ご覧いただくESRの実験を決定しました。
このページでは、当日ご紹介した「絶対スピン定量」および投票結果上位の6種類の実験をご紹介します。
ウェビナー全体の様子および配布資料は、以下からご覧いただけます。
絶対スピン定量 SpinCount の機能を用いると、標準試料なしでスピン定量が可能です。
ここでは 10 uM のTEMPOLを測定し、絶対スピン定量を行った結果、10.7 uMと決定されました。ESRで定量を行う場合、積分誤差が問題となりますが、ベースライン補正機能付きの積分ツールを用いることで積分誤差を小さくすることが可能です。
ポリマーには、劣化防止用にHALSや酸化防止剤が含まれています。ここでは、酸化防止剤単体のESR信号を、温度を変えながら観測しています。
酸化防止剤を温度を上げて測定することで、ラジカル化した酸化防止剤のESR信号を得ることができます。酸化防止剤 IRGANOX1010では融点が 130℃前後であり、この温度付近でラジカルの発生が認められ、温度の上昇と共に信号強度が強くなりました。観測される信号は 2種類の等価なプロトンによるもので、それぞれ3本の分裂を示すため、合計9本の信号が観測されます。
ポリマー中の酸化防止ラジカルが、紫外線照射の前後でどのように変化するかをESRで確認します。酸化防止剤 IRGANOX B225の含まれたポリスチレンを試料管に挿入します。365 nmのLEDを照射する前後でスペクトルの比較を行いました。
酸化防止剤入りのポリマーにUVを照射して得られたスペクトルは、酸化防止剤のみにUVを照射したときのスペクトルと一致しました。UV照射によって酸化防止剤がラジカル化したものと考えられます。
植物油脂は空気中の酸素によって酸化され、様々なラジカル反応を経由して、製品の劣化を引き起こします。
反応を促進させるため、高温あるいはUV照射後にESR測定をすることで、酸化ラジカルの観測が可能です。発生するラジカルの寿命は短く、また、断続的に発生するので、スピントラップ剤を用いて観測を行います。
ここでは、植物油脂 0.5 mlに PBNエタノール溶液(2.5 M)を 25 ul加え、攪拌後、70℃で 120分加熱した後、ESR測定を行い信号強度を確認しました。
新旧2種類の油脂の測定の結果、新しい油脂では古い油脂よりも信号強度が小さくなりました。これは酸化によるラジカル発生が少ないことを示しています。植物油脂の酸化の指標としてはPV(過酸化物価)法が多く用いられます。ESR法では過酸化ラジカル以外の酸化ラジカルも検出できるためPV法より高感度に、また簡単に測定が可能です。
酸化チタンは光触媒として多く用いられています。水中の酸化チタンにUVを照射するとOHラジカルが発生します。OHラジカルは反応性が高いため、有害物質を分解すると言われています。ここでは、酸化チタンにUV照射を行ったときのラジカル発生を確認します。
5% TiO2 懸濁水溶液 180 uLに DMPO (1 M)を 20 uL加えて試料とし、UVを照射しながらESRの観測を行いました。
UV照射を行った試料からはヒドロキシルラジカルが観測されました。スピントラップ剤 DMPOを用いることでラジカルの種の同定も可能です。
HALSはヒンダードアミン系の光安定剤です。試料のポリスチレンには2%HALSが含まれています。ここでは光照射によってHALS由来の信号(アミンの窒素)が、ESRで確認できるか実験しています。
HALSを 2%含むポリスチレンを ESR試料管にカッターで切って入れ、UVランプを照射しながらESR信号を観測しました。
HALS入りのポリスチレンにUV照射を行うことで、時間と共にHALS由来と思われる信号が観測されました。実験に使用したポリマーには、BASF社製の TINUBIN123が含まれています。これは、下図の様な構造を持っており、光照射によってニトロキシドラジカルが生成したと考えられます。光照射と共にラジカルは増え続けており、断続的にラジカルを補足していると考えられます。
宝石中の欠陥や遷移金属は宝石の品質、グレード評価に重要な要素となっています。ESRによってこれらの評価が可能かを検証する実験です。
宝石を試料管に入れてESR測定を行います。
エメラルドは組成が Be3Al2Si6O18です。これに不純物であるCr や Vが含まれ緑色の色を発色します。実験ではMn及びCrのピークが観測されました。
ルビー、サファイアは共に組成が Al2O3です。ルビーには不純物としてCr、サファイアには不純物としてFe, Tiが含まれています。これらの金属が結晶内で欠陥を生成し、発色します。結晶であるために、角度によりESR線形は異なります。