固体NMR測定では、測定者がサンプルのどのような分子構造情報を求めているかによって、核種、パルスシーケンス、MASの有無、回転数(MAS有)、等を決めて測定するが、その手法の選択でスペクトルの波形が大きく異なる。溶液NMRスペクトルのようなシャープな吸収型波形になることもあれば、化学シフト異方性相互作用や四極子相互作用の影響で複雑な波形を示すこともあり、また、それらのピークが重なり合うことさえもある。そのような固体NMRスペクトルからサンプルの分子構造や分子運動の情報を引き出すためには、実測のスペクトルにシミュレーション・スペクトルをフィッティングし、フィット・パラメーター(等方性化学シフト値、半値幅、化学シフト異方性、四極子結合定数、非対称パラメーター、強度比等)を算出する技術が多くの場合必要である。
本Webinarでは、固体NMRスペクトル・フィッティングの技術に焦点を当て、その解析方法とデータの解釈について解説する。解析には弊社のNMR処理ソフトウェアTopSpinに搭載されているSolaプログラム(Fit Solids NMR Methods)を用いる。 本seminarでは次のことの習得することを目指す。
① 測定者が求める分子構造情報を得るための固体NMR測定を適切に選ぶことができる
② スペクトル・フィッティングによる解析を行い、フィッティング・パラメーター(化学シフト値、強度比等)を得ることができる
スペクトル・フィッティングによる解析については、次の例を取り上げる。
① Gauss/Lorentzスペクトルのデコンボリューション
② 四極子核のパウダー・パターン (2H含む)
③ MQMASスペクトルの解析
④ 化学シフト異方性(Chemical Shift Anisotropy, CSA)パターンの解析
このような波形解析の手法を活用することでスペクトルの単純比較にとどまらず、より詳細な物理量をスペクトルから得ることができ、固体NMRの利用の幅が広がることが期待されます。
NMR測定は興味の対象となるサンプル内に含まれる分子の構造や運動状態を調べ、最終的にサンプルの物性との関連を見いたすことに大きな威力を発揮する。NMRを用いて異なるサンプル間のスペクトルを単純に比較し分子構造・運動を議論することにも十分意義はあるが、それだけではNMRを十分利用しているとは言えない。本Webinarではスペクトルを測定し、単純に比較するだけでは
なく、スペクトルの波形から有用な物理量を得る方法について解説する。また目的の情報を得るための測定方法の原理の説明から、得られたスペクトルの解析方法についても具体的な例を使って紹介する。
畑中 稔
ブルカージャパン バイオスピン事業部 アプリケーション部
木村 英昭
ブルカージャパン バイオスピン事業部 アプリケーション部