アプリケーションノート -  磁気共鳴

NMRによるタンパク質相互作用の劇的変化の解明

「今回の成果は、天然変性ドメインが関与するタンパク質-タンパク質複合体が、簡単には予測できない構造と動的な再配列の複雑な相互作用によって、より強い結合となっていることを示すものです。」

 

「今回の成果は、天然変性ドメインが関与するタンパク質-タンパク質複合体が、簡単には予測できない構造と動的な再配列の複雑な相互作用によって、より強い結合となっていることを示すものです。」

タンパク質間相互作用とは、2つ以上のタンパク質分子が静電引力により高い特異性を持って接触することです。この相互作用は細胞の構造と機能にとって重要であり、遺伝子発現、増殖、細胞内情報伝達、アポトーシスなど、事実上すべての重要な細胞内プロセスを制御しています。そのため新たな治療薬開発のターゲットとして注目されています。

実際に、タンパク質間相互作用は、健康な状態や病気の状態で身体がどのように機能するかを理解するために、徹底的に研究されてきました。

タンパク質間相互作用は高い精度を示すことから、望まれる構造あるいは機能的な目的に最適化されたタンパク質間相互作用を実現するためには、進化の道筋があったに違いないと考えられています。現在見られるタンパク質間相互作用は、何千万年、何億年という時間をかけて進化してきたと考えられます。

新しいタンパク質間相互作用は、点突然変異や遺伝子複製の結果、偶然に生じることがあります。新しい相互作用は、細胞の生化学に異なる影響を及ぼし、元の相互作用よりも有益であるか、あるいは有益でないこともあり得ます。効果が低ければ、存続することはありません。しかし、有利であることが分かれば、自然淘汰によって保持されることになります。 

このような進化の過程はほぼ間違いなく行われていたはずですが、その実態はほとんどわかっていません。6億年ほど前に存在した種では、天然変性CREBBP(CREB結合タンパク質)の相互作用ドメイン(CID)とNCOA(核内受容体コアクチベーター)およびCREBBP/p300の核内コアクチベーター結合ドメイン(NCBD)の間のタンパク質間相互作用は、現在見られるものと比べてはるかに小さく、大きな構造的不均一性を伴うことが知られています。

このようなタンパク質間相互作用の進化的変化の性質は、最近、歴史的な3つのCID/NCBD複合体を比較することで探究されています3。各複合体の構造は、298Kでの三重共鳴クライオプローブを用いたNMR(600、700、900MHz、1H検出)測定により得られました。そして、新しい超高磁場装置による効果が期待される緩和分散NMR法を用いて、タンパク質間の相互作用のダイナミクスが研究されました。

最も古いカンブリア紀のCID/NCBD複合体では、より新しい形態の複合体に見られる二次構造のいくつかが欠けていることがわかりました。また、先祖由来の親和性の低い複合体から、より新しいオルドビス紀・シルル紀・現生人類の複合体へと、背骨の動きの縮小と改造が進んでいたことが明らかにされました。オルドビス紀-シルル紀のCID/NCBD複合体では背骨の動きが小さくなり、現生人類のCID/NCBD複合体ではさらに再区分されるようになったのです。

このように、技術の進歩により、CID/NCBD複合体のタンパク質間相互作用の6億年にわたる進化的変化をとらえることができるようになりました。今回の発見は、タンパク質間相互作用の進化において、構造と運動の変化が親和性を形成することを明らかにしたものです。

参考文献

Jemth P, et al. Structure and dynamics conspire in the evolution of affinity between intrinsically disordered proteins. Science Advances 2018;24(Vol. 4):no. 10, eaau4130. http://advances.sciencemag.org/content/4/10/eaau4130

 

References

Jemth P, et al. Structure and dynamics conspire in the evolution of affinity between intrinsically disordered proteins. Science Advances 2018;24(Vol. 4):no. 10, eaau4130. 
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aau4130