材料科学および物理分野のESRのアプリケーション

HALSによるポリマーの光酸化防止効果
光照射によって、ポリマーの変色及び機械的性質（伸縮性、強度、その他）の低下などのポリマーの劣化が起こります。劣化を防止するため、ヒンダードアミン光安定剤（HALS）がポリマーに添加されます。この光安定剤のESR信号をモニターすることにより、その影響を評価することが可能です。

ニトロキシドスピンラベルを使った(PEM)フィルムのESR研究
高分子電解質（解離したイオン基を持つポリマー）の多層は、逆荷電の高分子電解質の交互吸着によって形成され、交互積層法と呼ばれます。強いポリカチオンと弱いポリアニオンで構成されているPEMフィルムを通常遊離ニトロキシド（4-amino-TEMPO）でスピンラベルし、ESRで評価します。PEMフィルムの成長をモニターし、ESRの定量分析によってそれぞれの二重層についての情報を得ることができます。

紫外線照射した塗料のHALS ESRによる劣化評価
塗料皮膜の劣化は、結合剤や何らかの色素など、いくつかの構成要素の劣化が主要な原因です。劣化は長時間の紫外線（日光）照射、湿気、凍結ー解凍の繰り返しによるフリーラジカルの生成によって起こります。フリーラジカルは極めて反応性が高く、物質内の化学的結合を形成または破壊します。実際に、フリーラジカルは塗料の膜にダメージを与えます。
このプロセスは皮膚の老化と非常に似ています。長年日光にさらされると、皮膚はフリーラジカルを含むようになり、シワやしみ、乾燥などの老化現象を示すようになります。

ESRによるアモルファスシリコンの欠陥の検出
太陽電池の業界では、単結晶または多結晶の太陽電池を製造する材料として、シリコンは最も一般的です。常磁性の欠陥をESRで具体的に評価することで、劣化によって誘起された常磁性中心が太陽電池の活性層の効率にどのような影響を与えるのかを知ることができます。ESRによるアモルファスシリコン太陽電池の研究では、常磁性欠陥の存在とその結果としての電荷収集効率との間に強い関係があることが示されました。

ウルツァイト薄膜におけるMgの配位の決定
遷移元素、希土類、アクチノイドイオンは、3d、4d、5d、4f、5fのグループに属しており、多くのESR研究の対象となっています。遷移元素がESRの研究対象として興味深いものになっている一つの理由として、可変原子価が上げられます。例えば、Zn1xMgxO錯体は、酸化物半導体向けの多用途な機能性材料ですが、バルクおよび界面での原子配列が酸化物の重要な特性を決定します。ESRを用いて、ヘテロエピタキシャル・ウルツァイトのZn1xMgxO:Mn薄膜のMg配位を決定することができます。