ラマン分光法は、さまざまな物質の定性、定量、特性評価に使用できるという点で、他の化学分析技術と類似しています。しかし、予備知識を必要とする検討事項が多いため、他の技術よりも専門的な知識が必要です。それにも関わらず、ラマン分光法は、他の技術にはない利点をもつ強力なツールであるため、様々な研究分野において貴重なツールとなっています。
非接触測定技術:
ラマン分光法は、あらゆる物質に触れることなく測定できます。
データの質の高さ:
ラマンのデータからは、様々な試料を詳細に評価することができます。
試料の前処理が不要:
ラマン分光法は、ほぼ全ての試料をそのまま測定できるため、実験の準備が簡単です。
透明なパッケージを通して測定可能:
通常、ラマン分光法では可視レーザーを使用するため、ガラス瓶やビニール袋など、可視光が透過する透明な包装であれば、そのまま測定することが可能です。
微小構造も分析可能:
ラマン分光法では、5µm以下の試料を簡単に分析することができ、更に、より専門的なラマン技術では単一分子サイズまで分析することが可能です。
水溶液の測定が可能:
試料中に存在する水分子は化学分析の妨げになることが多くありますが、ラマン分光法ではその影響は小さく、水溶性懸濁液中の浮遊粒子も直接分析することが可能です。
高性能な携帯型装置が利用可能:
ラマン測定は、外出先や現場でも使用でき、しかも高品質で優れた結果を得ることが可能です。
顕微鏡とイメージングによる空間分解分析:
ナノメートルオーダーの微細な構造までもラマン顕微鏡で分析できます。イメージングにより、試料の化学的および物理的特性の分布を可視化できます。
ラマン分光法は、品質管理、故障解析、試料の同定、材料の特性評価、一般的な物理的・化学的特性の調査など、幅広く活用されています。また、顕微鏡観察により、その有用性を高めることができ、微小構造の解析やほぼ全ての物質の分析に利用できます。
ラマン分光法は、グラフェン、CVDダイヤモンド、カーボンナノチューブなどの炭素含有材料の主流な分析技術となっています。欠陥の有無や、化学結合の種類を正確に決定することで、材料の特性を評価することができます。
さまざまな用途に向けた材料の研究開発において、どちらの分析内容も重要な役割を果たしています。また、試料中のグラフェンの層数や、カーボンナノチューブの直径の計測にも使用できます。このように、ラマン分光法ほど炭素材料に関する多くの情報を取得できる分析技術は他にはありません。
ラマン分光法は、品質確認、故障解析、研究開発など、材料研究の分野における強力な分析ツールです。 未知の材料の同定、製造工程におけるポリマー充填材や添加剤の定量化、バイオ材料の特性を理解するための特性評価などに使用できます。
ラマン分光法は、熱で変性したポリマーの分解や、天然に存在する炭素含有化合物によるセメントの腐食など、物質の経時劣化を研究する強力なツールでもあります。 また、微小領域の構造解析にも優れており、薄いポリマーコーティングやセラミックの結晶構造の分析にも使用することができます。
ラマン分光法は、医薬品製造のあらゆる段階(開発から最終製品の検証まで)における優れた分析ツールです。医薬品開発の研究が本格的に始まる前に、リバースエンジニアリングのため、すでに存在する製剤中の成分の特定に使用することができます。
医薬品を開発する際には、成分の安定性の調査や、化学構造に基づいた目的の分子の単離に役立ちます。医薬品が製造される際には、ラマン顕微鏡を使用して固体または液体の医薬品を画像化し、医薬品に汚染物質がなく、均一に分布していることを確認することができます。
ラマン分光法は、水中の試料を簡単に分析できるため、細胞、タンパク質、その他の生物学的試料の研究に最適なツールです。ラマン顕微鏡は、細胞の構造を調査・可視化し、組織試料のケミカルマップを作成するのに非常に有用です。
また、タンパク質やDNAの構造、さまざまな生物学的機能への関与の研究にも使用できます。更には、体内のさまざまなタンパク質を調べることで、癌の検出に使用することもできます。
法医学の分野においても、ラマン分光法が有用な技術となる大きな利点があります。それは、包装内部の物質を直接分析できるという点で、容器の中に入っている偽造品や違法薬物の調査に非常に有効です。
また、携帯型ラマン装置を用いると外出先でも使用することができ、犯罪現場の証拠を特定したり、爆発物を検出したりするのに役立ちます。更に、ラマン顕微鏡を使用することで、微量の証拠品の発見でも、化学的に特徴付けることができます。
改良されたバッテリーや太陽電池のような新技術の材料を研究する際、化学分析は重要な役割を担っています。ラマン分光法は、シリコンの構造を解析することができるため、太陽電池の製造に役立つツールです。
また、電池技術の開発にも使用され、電池が作動する際に内部で起こる化学変化の解明や、水溶液中に存在する物質の測定も行うことができます。このように、電池のあらゆる部分を容易に調べることができるため、ラマン分光はこの分野においても優れていると言えます。
ラマン分光法は、試料の前処理を必要としない非接触測定法であるため、美術品、文化遺物、歴史的文書を調査するための貴重なツールとなります。修復前の美術品の化合物の特定や、美術品の劣化過程などを調査するために用いることができます。
また、ラマン分光法は、作品が時間経過による劣化にさらされる前に、その作品の作られた当時の外観を理解するためにも役立ちます。更に、古い遺物の構成成分の特定にも使用できるため、それらが作成された文化について、より詳細に学ぶことができます。