電池の研究と製造

顕微ラマンイメージングによるエネルギー貯蔵の分析事例

シリコン-黒鉛負極のサイクル特性解析

リチウムイオン電池は、スマートフォン、ノートパソコン、電気自動車、再生可能エネルギーシステムなどのデバイスに電力を供給します。シリコン-黒鉛複合負極は、シリコンのもつ優れたエネルギー容量と黒鉛のもつ安定性を兼ね備えていますが、体積膨張やシリコンの粉砕などの課題があり、寿命と効率が制限されています。

ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や ポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)などのバインダーは、充放電サイクル中の電極の状態を保持することで、これらの問題に効果的に対処します。ラマン顕微鏡によって、電極材とバインダー間の結合メカニズムが明らかにすることで、バインダーの分布と均一性の評価を行います。RAMANtouch でシリコン-黒鉛複合負極を分析した結果、PAANa バインダーが均一なシリコン合金化を促進し、安定性を高めることが明らかになりました。

一方、PVdF バインダーを使用した電極では、サイクル後に不活性ナノシリコンが散乱した状態が確認され、体積膨張の問題が示されました。これらの結果は、電極の安定性向上におけるPAANaの有効性を示しており、ラマン分光法を活用することでバッテリー設計を最適化できることがわかります。表面の光学像とラマン画像を重ね合わせることで、電極材料内のさまざまな成分の分布と振舞いを考察できました。

リチウムイオン正極の非大気曝露ラマンイメージング

シリコンは黒鉛よりも多くのリチウムを吸収できるため、高容量のリチウムイオン電池の負極材料として有望視されています。しかし、充放電時の体積変化が大きいため、結晶シリコンが非晶質状態に変化してしまうことがよくあります。

これにより、不可逆的な容量損失、構造劣化、拡散速度の変化、電極の不安定性が生じ、バッテリーの性能と寿命に影響を及ぼします。以下に、充電前後のラマンイメージングにより、シリコン系のリチウムイオン電池負極の状態を調べた例を示します。

また、充放電時の体積変化によりシリコン結晶が崩壊することもあります。ポリアクリル酸ナトリウム(PANa)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのバインダーを使用してシリコン粒子を細かく分散させることで、この現象を回避できます。

下の例では、バインダーとしてポリアクリル酸ナトリウム(PANa)を使用することで、各成分が均一に分散していることがラマンイメージングによって示されています。一方、バインダーとしてPVdFを使用した電極板では、PANaをバインダーとして使用した場合と比較して、グラファイトとケッチェンブラックの混合状態への偏りが見られます(下図)。