NMRをつかうことで様々な固体の物性を分子運動を通して観測することができます。この分子運動解析の中心となる手法が緩和時間の測定であり、NMRで観測されるスピン系の様々な緩和時間を解析することで分子内の局所的な運動性からマクロな構造まで幅広い分析をおこなうことができます。NMRの緩和には、大きくT1緩和(縦緩和、スピン-格子緩和)、T2緩和(横緩和、スピン-スピン緩和)、T1ρ緩和(スピンロック中の縦緩和)があり、それぞれがどのような機構で起こるのか、そしてそれらを解析することでどのような物理量が観測できるのか説明します。同じT1緩和であっても1Hのようなabundantな核と13Cや29Siのようなrareな核の緩和のしくみは異なっており、それぞれで得られる情報が異なります。1HのT1緩和時間の例では、ブレンド・ポリマーの相溶性、結晶多形の識別ができることを示す研究例を示します。また、13CのT1緩和時間の例では、結晶/非晶の運動性や結晶多形の違いを解析した研究例を紹介することで、1Hとの違いを解説します。T1緩和時間を測定する方法には、大きくinversion recovery法(Torchia法)と saturation recovery法がありますが、その違いや使いわける方針についても説明します。T2緩和解析についてはエラストマーへの応用例を紹介し、T2緩和時間を測定する方法であるecho法とCPMG法のメリット、デメリットについて説明します。緩和時間は温度によって変化することがありますが、それを利用し、NMR表示温度とサンプル温度との補正を行う方法についても説明します。緩和時間の解析方法については、NMR測定用ソフトウェアTopSpin上で行う方法とDynamic Centerで行う方法とを説明します。
木村 英昭
ブルカージャパン バイオスピン事業部 アプリケーション部
畑中 稔
ブルカージャパン バイオスピン事業部 アプリケーション部